旅行事業者の責任と関わり方

北海道では、体験型観光の世界会議「アドベンチャー・トラベル・ワールド・サミット(ATWS)」を札幌市などで2021年9月20~23日に開き、60カ国程度から約800人の参加を見込んでいる。ニセコや道東部の先行事例をPRして欧米からの富裕層誘致につなげる狙いだ。しかし、観光におけるアドベンチャー(冒険)とは何かを考える前に、自然が多い場所を同様に活用する国際的に確立されたエコツーリズムについて触れてみたい。日本では推進法が議員立法で制定されているが、環境保全や教育に資するはずのエコツーリズムが自然と触れ合うだけのネイチャーツーリズムと玉石混合となっており、訪日観光客のアクティビティーが多様化するなか、混乱が生じていると聞く。エコツアーガイドの認定制度もあるが、実際に自然保護や地域経済に役立っているかを全国一律で検証しているデータは見当たらない。
 アドベンチャーツーリズムもこれと同じく、国際的な見地からの理解なしでは日本版の定義が独り歩きする可能性がある。エコツーリズムにはエコツーリズム協会、アドベンチャーツーリズムにも関連団体が国内外に存在するが、その影響力は会員が対象で限定的だ。地域貢献や環境保全に対する研修の実施や好事例を公開・共有し、現場での交流と事業報告につなげている団体は数少ないように思われる。
 最前線に立ち最も影響力を持つ事業者を対象にした教育が浸透すれば、冒険的なアクティビティーに関し、より安全で地域を元気にする事業者になれる。これが、去年設立した一般社団法人JARTA の活動目的のひとつである。
 JARTAは英語のJapan Alliance of ResponsibleTravel Agenciesの略であり、責任ある旅行
会社アライアンスとして昨年5月、意識の高い旅行会社7社の声がけによって京都に誕生した。旅行会社やツアーオペレーター、着地型観光に取り組む関係者が抱える課題や問題の共有、環境や社会に資する持続可能な観光への貢献、ポータルサイト運営を通じた共通ブランドで発信する商品開発と販売、国際旅行博などへの共同出展を事業内容としている。持続可能な観光の国際基準に準拠して運営できるよう、旅行会社やツアーオペレーター向けに各地で講演や研修、ツーリズムEXPO ジャパン開催時に合わせたファムツアーの共同企画などを実施。2030年に向けて、旅行会社として国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)を目指し、健全な地域づくりのための旅行を提案する。
オペレーター選びにガイドライン
地域に根ざした旅行会社7社が発起人となり昨年発足したJARTAでは、国際基準に準拠した研修を実施しているや地域経済に関連づけられることが特徴だ。海外大手調査会社によると、訪問客の3人に1人は環境に配慮した観光地選びをしており、持続可能な観光が世界の潮流となりつつある。 観光はさまざまな産業に影響を及ぼすため、地域住民を観光のひずみから守るためにも、持続可能な観光の概念を具現化することは急務だ。JARTA は国際基準に準拠した研修を実施することで、旅行会社やツアーオペレーターがより地域還元率の高い旅行商品を造成できるよう支援している。昨年8月3 〜4日には、「旅行会社が実践する持続可能な観光国際基準研修」を大正大学地域構想研究所の協力を得て実施した。旅行会社、DMO、DMC の11社が集まり、責任ある事業者として運営改善を促す内容を習得した。特にグループディスカッションは即効性があると評価され、アウトバウンドを扱う旅行会社にとってパートナーであるオペレーター選びのガイドライン設定など、多くの課題を共有した。一例は以下のとおりだ。

1. 以下の立場から見て、地域経済を活性化するにはどのような方法があるか。
 ①旅行会社、② DMO、③ホテル
2. 以下の点に留意して新企画旅行商品を考える。
 ①誰が商品開発に関わるか、②旅行者の体験内容は、③地域住民はどう恩恵を受けるか、④旅行者はどう恩恵を受けるか
会社全体、一気通貫で実践
研修は、旅行会社の責任のあり方を習得し、明日から実践する力へと変えていくことが目的で、アドベンチャーツーリズムでも同様の概念での実施が求められる。成功への鍵は2通り考えられる。
 まず、販売力がある大手旅行会社は、会社全体が持続可能な観光を実施する運営管理体制を基礎から変えていくこと。部分的でなく、全体に浸透することでツアーオペレーターやサプライヤーに大きな影響を与えることが期待できる。一方で、中小規模で活動する地域に根差したオペレーターや旅行会社は、責任ある形で旅行商品を企画・開発・販売を一貫して行うことで地域力を育み、還元率を最大限に高める。JARTA は後者の取り組みを後方支援するためのアライアンスである。
 具体的に配慮が必要な項目は3つある。①生物多様性、生態系、景観の保全:外来種や本来の生態系にはない生物種の侵入を防止すること。②野生生物との接触や遭遇:負の影響を及ぼさないように干渉せず、責任をもって対応し、野生生物に対する累積的な影響を考慮に入れたうえで、その生存能力や個体群の行動に悪影響を与えない。餌付けはガイドラインを設定する。③地域にとって聖域とされる滝、山、島などは、オペレーターが安易に入らないよう地域との協議を重ねる。
 また、地域住民に雇用の機会と管理職も含めた昇進の機会を均等に与えることや地産地消の徹底、グリーン商品の優先購入、省エネルギー、温暖化対策など、あまり関係ないとされていた項目も国際的常識やアドベンチャーツーリズムを楽しむ顧客の期待に沿った形で販売する必要が出てきている。冒険は自然を楽しむ方法としてはリスクが高く、顧客の身体能力に合ったアクティビティーの提供はもちろん、危機管理の徹底による安全確保がなにより重要である。自然と地域に配慮したアドベンチャーツーリズムの定着と成功を祈りたい。
トラベルジャーナル2020年2月4日号弊社代表寄稿本文を修正・記載。(2020年5月16日)

国際基準を学び

地域に最大限還元