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~サステナブル・ツーリズムの役割~

国立公園が国立公園であるための観光とは

最重要項目の再認識
環境省のHPにこのような記述がある。「国立公園は、次の世代も、私たちと同じ感動を味わい楽しむことができるように、すぐれた自然を守り、後世に伝えていくところです」。オーバーツーリズム、気候変動、外来種、ごみなどの影響により、自然との共生が脅かされると次世代は私たちと同じ感動を味わうことが出来なくなる。世界に通用するナショナルパークのブランド化事業では、訪日外国人1000万人の入込数を目指してきた。その中で、「訪日外国人が長期滞在したくなるような素敵な国立公園への質の向上」をどう解釈して事業化しているかが今回のテーマの焦点となる。新型コロナウイルスの蔓延で、この数値目標が達成できないことが明白な今、ワーケーションの推進も含め、質を担保しながらより多くの来訪者を受け入れるため、持続可能な観光を導入するための受け皿整備が急務である。
内閣府は、国立公園におけるSDGs 地方創生に資するビジネスを創出する官民連携分科会を開催しており、「国立公園の価値ある自然資源の保護と利用の好循環を実現する」としているが、現実的に活用促進をしながら負の影響を最小限にするための具体的な議論がされているかは懐疑的である。

自然公園における観光は、長期的な保護管理を重視した持続可能な観光でなければなら・ない。また、公園内の私有地やその近くの住民、同様に来訪者の観光に対する満足度など双方の影響にも配慮するべきである。観光庁では、持続可能な観光の実現に向け、2018年に「持続可能な観光推進本部」を設置し、翌年に報告書『持続可能な観光先進国に向けて』をとりまとめ、今年6月には持続可能な観光地マネジメントを行うための支援ツールとして、私も検討委員として意見した持続可能な観光指標「日本版持続可能な観光ガイドライン」(JSTS-D)を開発・リリースした。グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会(GSTC)が開発した国際基準である観光指標を基礎としており、令和2年度は5モデル地区が選出され、私を含むGSTC公認講師らが3日間の研修を実施している。令和3年度は15モデル地区に増強され、内閣府の地方創生関連事業でも採択されている。GSTC基準が選択された理由のひとつは、世界観光機関が提唱する持続可能な観光のトリプルボトムライン「経済・社会・環境」に加え、観光地マネジメントを踏まえているからであり、国立公園や隣接する自治体・DMOはこのガイドラインを参考にするべきである。


世界のトレンド
以下はJSTS-D指標の一部であるが、国立公園は「自然テーマパーク」=観光地としてとらえ、徹底的な観光資源保護を実施しながら利用促進し、「自然観光商品で稼ぐ」民間的な意識と実行力が必要であり、ガイドラインの準拠やSDGsの達成は欠かせない。
  • A3 モニタリングと結果の公表「観光に起因する環境、経済、社会、文化、人権に関する課題について定期的に調査し、一般公表していること」
  • A6 住民参加と意見聴取「観光地経営について行政・民間事業者・地域住民の三者で構成される体制があること」
  • A7 住民意見の調査「観光地経営に関する住民の期待、不安、満足度などのデータは、定期的に調査されていること」
  • A14 気候変動への適応「観光に影響を及ぼす気候変動による負の影響を想定していること」
  • B4 コミュニティへの支援「事業者や旅行者が住民と共に、地域社会や地域の文化・自然環境の保全に貢献できる機会があること」
  • C8 観光資源の解説「観光地において、解説を含む適切な情報が地域住民と協力して作成され、提供されていること」
  • D7省エネルギー「観光地域におけるエネルギー消費量の削減と効率性の改善及び再生可能エネルギーの使用について目標値を定めていること」
  • D12 温室効果ガスの排出と気候変動の緩和「事業者が、温室効果ガスの排出量をモニタリングし、排出量を削減する取組があること」
  • D14 光害「光害を最小限に抑える取組及び事業者向けのガイドライン及び支援プログラムがあること」
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マサイ族所有の景観に溶け込むエコロッジ(ケニア):筆者撮影
今後推奨される取り組み
観光地として持続可能な観光の国際基準に準拠、または新たに策定することで、取り組み姿勢を国内外に認識させる。これにより指標に基づいた取組への参加、協力を促すことができる。ここで重要なのは自然保護団体、ガイド、観光従事者、地域住民など直接の関係者だけに限らず、第一次産業と加工業、都市計画、エネルギー、廃棄物、治安、医療など幅広い分野の作業部会を設立、責任と役割を明確にする。同時に利用客にとって必要とされる観光地プロフィールを作成し公開する。(JSTS-Dの付録2を参照)
宿泊施設に関しては、自然環境への配慮が市街地よりも厳格化されなくてはならない。ビジターセンターを含めた建造物は、2002年発行The International Ecolodge GuidelinesやGSTC-Iに準拠して策定されたアジアエコツーリズム宿泊施設国際基準(Asian Ecotourism Standard for Accommodations)を参考にする。既存施設は運用改善に資する事業を展開、新設の場合はガイドラインや基準に則った運営を促進、宿泊予約サイトではそれらの評価によって施設が選択されるようにする。

例えば、
  1. 立地の選択は、自然景観を損なう一番眺望の良い立地でない。
  2. 有機物や生物が宿る表土を埋め戻している
  3. 在来種以外の植生はない
  4. 雨水や中水利用をしている
  5. ライトアップや上向きに照らす外灯がない・光害への配慮がある
  6. 送迎車のアイドリングストップや再生エネルギーを主電源としている
  7. 地産地消メニューの差別化を導入 
  
​ などは実行可能である。旅行会社やツアーオペレーターに関しても、欧州のクルーズ会社が寄港地において事業者が持続可能な観光の認証制度参加を義務付けているように、自然公園でも同様な措置を講じることができるはずである。

国立公園の国際ブランド化を考えているのであれば、マーケティング重視ではなく、運営改善を主眼に置き、持続可能性の取り組みりを透明化することで意識の高い利用客や事業者を結果的に呼び込むことができるのではないだろうか。コロナ禍の今、過去の事業や事業者の存続に投資するだけではなく、選ばれる観光地になるための未来に投資していただきたい。

自然公園財団「國立公演」令和2年11月1日発行通巻788号弊社代表寄稿本文を修正・記載。(2021年6月19日) 
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大自然を次世代に残していく大切さを感じて。(筆者と知床硫黄山)
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