グレートリセットへの論点

気候変動問題に寄与できるか

わが国は50年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロとすることを閣議決定し、観光も具体例として脱炭素と地方創生を同時に達成することが盛り込まれている。国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)で正式に立ち上がったグラスゴー宣言は、国連世界観光機関(UNWTO)が中心となり、観光分野での二酸化炭素(CO2)排出量を削減する取り組みとして注目される。

 今後10年で少なくとも半減させ、50年までに排出量ゼロを目指す。想定されるのは、今世紀後半に温室効果ガスの観光での発生源による排出量と吸収源による除去量とを均衡すること。観光関連活動による排出量を測定、削減目標を設定し、削減効果を検証。削減できない分はオフセット(相殺)することが期待される。算出してもオフセットしなければ温室効果の緩和にはならない。

 CO2は主に化石燃料(石炭、石油、天然ガス、灯油など)の燃焼で発生する。観光で不可欠な飲食、宿泊、アクティビティー、目的地への移動と域内での移動で大量のCO2が排出する。例えば、送迎車、レンタカー、従業員の車に使う燃料は直接的、石炭・石油・天然ガスなどを燃焼して発電している火力由来の電力を契約して購入すると、施設の事務室や共用部分でも間接的に排出している。はやりのE-bike やEV 車は使用する電源構成が再生可能エネルギーになっていることを確認、契約電力会社を変更することも視野に入れたい。ネット上では価格比較サイトが多くあり、新しい電力会社に乗り換えることでコストダウンと環境配慮を両立できる。

 自社事業に限らず、コスト面と環境面を両立できるサプライヤーの見直しを徹底的に行う。商品であれサービスであれ、質が担保されていることが前提だが、物流や保管など地産地消を徹底することで間接的排出を抑え、簡易包装やバルク搬入してくれる近くの業者を選択したり要望する。地域の経済効果を上げることも失念してはならない。

負の影響への対策はあるか

 2000年にいわゆるグリーン購入法が制定され、エコラベルの付いた商品情報は充実している。また、SDGs 目標12「つかう責任」の達成に寄与するためにも、原料の採取から利用・販売、そして廃棄までの過程で排出しているCO2をなるべく削減する。結果として環境負荷を定量的に示すライフサイクルアセスメントを考えることとなる。
 
 持続可能な観光の国際認証基準や観光庁とUNWTO が2020年6月に発行した日本版持続可能な観光ガイドラインでもSDGs目標13と共通する気候変動への適応は欠かせない。温暖化による海面上昇や異常気象などによるリスクにどのように備えるかが焦点で、気候変動による観光資源消失や観光客減少など観光地域が成り立たなくなるリスクに対策を講じているかが問われる。

具体的には、気候変動による負の影響を軽減する計画や方針があること、さらには住民、観光事業者、来訪者向けの気候変動による影響に関する教育や意識向上の取り組みがあることとされている。一方で、温暖化を機会に新しいことに挑戦して、観光経済効果を高める努力を怠らない姿勢も必要だろう。
 
例えば、鵜飼いを観光資源に活用する地域で、鮎の好む生息地の水温が上限の25度を超えてしまうことを想定した場合、渇水や高水温化で群れが上流に逃げてしまい、数百年と漁が続いていた場所で鮎が採れないばかりか、観光資源が失われてしまう。北海道では日本の食文化を支える昆布の生育地が海水温上昇と共に北上し、より温暖な海のワカメに代わってしまうとの予測もある。スキー場に雪が降らない、サンゴ礁の白化現象などは世界中で起きている。半面、北海道がワイン用ブドウの代表品種ピノ・ノワールの栽培適温域となるなど期待されることもある。
 
 規模からすると小さいが、環境省のゼロカーボンパーク推進にも注目したい。最近視察した中部山岳国立公園や日光国立公園では、温泉の熱交換や廃熱利用で本来化石燃料に依存する温泉宿の暖房や給湯によるCO2排出が著しく抑制されている。床暖房や蒸し料理にも使われ、これらの情報を前面に出すことで意識の高い客層を呼びこめる。

地域や地球の将来を考えて
 
 飲食店や宿泊施設で取り組みたいのは生ごみの水切りの徹底、可能な場合は堆肥化して作物を育てるのに再利用するなど循環社会への寄与である。食品ロスだけでなく、ごみの発生抑制、特に化石燃料由来のプラスチック製品には気を使いたい。発生した場合、処理場まで運搬して再利用のための環境負荷を考える。
 強調したいことは、濡れて燃えにくい生ごみをプラスチックごみやペットポトルと混ぜて燃やすことで再利用と呼ばれるサーマルリサイクル。ペットボトルはペットボトルに生まれ変わっているだろうという日本人の思い込みを見事に崩してくれる。持ち込まれたペットボトルのラベルを手作業で外して、水洗いまでしている宿泊施設などの努力はむなしく、処理場で大方燃やされているのが現実なのだ。

 サーマルリサイクルはプラスチックごみを燃やした際に得られる熱エネルギーを回収するリサイクルのことだが、欧米諸国ではリサイクルと認めていない。環境教育を観光産業や利用者に行うことが必要な例の1つである。

 21年度にグローバル・サステナブル・ツーリズム協議会が実施した研修プログラムは20カ所以上。国内で稼働する公認講師は3人だが、持続可能な観光を推進する責任を担うDMO などのコーディネーターは研修プログラム修了者や試験合格者を中心とすることを国も強く求めている。
 
 大切なことは観光のための地域か地域のための観光かを再考することである。子供たちが私たちの世代になる時に、いまある地域の資産が守られているかどうかを考えればSDGsが終わる30年までの計画では不十分なことが十分理解できる。

 気候変動にも寄与できるかでなく、本当に地域や住民のことを考えるなら、寄与するという選択肢しかない。観光は目的ではなく手段である。地域や地球の将来を考え、観光をどうすべきかを考える時はすでに来ている。

トラベルジャーナル2022年1月3-10日号弊社代表寄稿本文を修正・記載。(2022年1月27日)